食品の放射線照射殺菌

食品の放射線照射殺菌

はじめに

日本では食品衛生法によりジャガイモの発芽防止のための放射線照射が認可されていますが、それ以外の食品の殺菌への使用は認められていません。
一方、海外では食品の殺菌に放射線の照射が認められている国が増えています。
日本では放射線についての消費者の拒否反応が強いため、認可が進まないようですが、世界の情勢は多くの国で利用されるようになりました。
しかし、必ずしもどんどん進んでいる訳ではないようです。

放射線とは

放射線とは、放射性物質または放射線発生装置から出るエネルギーの高い粒子線や電磁波のことで、粒子線にはアルファ線、ベータ線、中性子線などがあり、電磁波にはガンマ線、エックス線があります。

食品への放射線照射について

食品へ放射線を照射する目的は主に食品の殺菌や貯蔵・保存のためです。
従来の加熱や化学薬品による殺菌に比べ、次のような画期的な特徴があります。

1)食品を容器包装に入れたままで殺菌できるので殺菌後の汚染が少ない。

2)生鮮食品や冷凍食品でもそのままの状態で殺菌できる。

3)穀物の殺虫などに利用する場合、化学薬品による汚染が防げる。

放射線照射の安全性について

昭和55年、国連食糧農業機関、国際原子力機関、世界保健機構の合同専門家会議で「10キログレイ以下の線量で照射を行う場合には、食品全般に対し照射後の健全性(健康に影響を及ぼさず安全であり、且つ栄養素が損なわれないこと)について問題はない。」という国際的な評価が示されました。
日本においても、昭和42年から当時の農林省、厚生省、日本原子力研究所が共同でじゃがいも、たまねぎ、米、小麦、水産練り製品、ウインナソーセージ及びみかん、の7品目について放射線を照射し、マウスやラットに投与する研究が行なわれてきました。
その結果、一定線量以下の照射での健全性が確認されています。
(科学技術庁資料より)

じゃがいもの照射室(北海道士幌農協)現在世界の約20カ国で食品の放射線照射は実用化されており、処理量は約100品目で合計60万トンにのぼるといわれています。
しかし、最近になって照射によりできる「シクロブタノン」という成分によって遺伝子の切断が起きること、更に「シクロブタノン」により発ガンが促進されることが報告されています。
放射線照射は、欧州では2000年ごろから減少の傾向にあるようです。
一方、世界の処理量の半数を占めているは米国ですが、実際に市場に出回っている照射食品の種類はそれほど多くなく、年間スパイス類で6.3万トン、ハンバーガーパテが2.3万トンといわれていますが、米国でも消費者は照射食品に否定的な意識が強くなっているといいます。

我々はどのように考えればよいか

食品の放射線による殺菌は確かにメリットの多い手段ですが、まだその安全性について不安な情報があります。
あくまで個人的見解ですが、放射線照射の利用はもう少し時間をかけて状況を見たほうがよいと考えます。
一方グローバル化する食品の流通のなかで照射処理されたものが海外から輸入される可能性も高いので、これらを検出する分析技術の確立も急務です。
またソフトエレクトロンという放射線の線量が少ない場合の殺菌効果や品質への影響についても研究が進んでいます。
これらの進行状況と結果を見て判断しても遅くないと思います。
また消費者に対して「放射線」と「放射能」の正しい知識の啓蒙もこれらと並行して行なってゆく必要があります。
 
 

食の安全コラム 記事一覧

 

今月は「食品の放射線照射殺菌」について解説し、世界と我が国の情勢と、その問題点について触れて見ます。

コラム執筆者の自己紹介

食の安全コラム - 大谷丕古磨大谷丕古磨(オオタニヒコマ)が担当しています。
勿論、小金井市の住民で、現在小金井市の食育推進会議の委員(公募)です。
またボランティアですが、この食育ホームページの編集委員のメンバーでもあります。
私は食品会社に40年ほど在職し、現在は食品関連の技術士として行政当局や食品企業のお手伝いをしています。
特に食品の安全問題に関与して、講演や著作などの活動もしています。
食品安全委員会が発足して以来、5年間食品安全モニターを勤めたり、技術者の安全セミナーを主宰したりして、常に最新の食品安全の情報を把握するよう日々勉強しています。